大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)9号 判決 1988年6月24日

控訴人(原告) ユニタイト工業株式会社

被控訴人(被告) 神戸市 神戸市兵庫区長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

(一) 被控訴人神戸市兵庫区長が昭和五五年四月一四日付けで控訴人に対してした控訴人の昭和五一年二月二一日から昭和五二年二月二〇日までの事業年度(以下「昭和五二事業年度」という。)の事業に係る事業所税の更正処分及び昭和五二年二月二一日から昭和五三年二月二〇日まで(以下「昭和五三事業年度」という。)の事業に係る事業所税の更正処分をいずれも取り消す。

(二) 被控訴人神戸市は控訴人に対し、金三六一万一八三〇円及びこれに対する昭和五八年二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに右1の(二)につき仮執行の宣言

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、それをここに引用する(ただし、原判決三枚目裏二行目の「五三年四月頃」を「五二年四月二〇日」に(訴状の記載は誤記と認める。)、同一二枚目表一〇行目の「七月」を「四月」に、同一四枚目裏七行目及び同一五枚目裏一行目、四行目の各「協同ねじ」を「共同ねじ」に各改める。)。

一  控訴人の主張

控訴会社の神戸工場は、控訴会社が構造改善事業として実施した「生産ラインの一部分の協業化」、「出資」のいずれの面からみても非課税施設(地方税法七〇一条の三四第三項二一号の施設)に該当する。

1  控訴会社が神戸工場において構造改善事業として実施した「ボルト生産の第一工程(成型作業)の協業化による集約化」について、原判決は右協業、集約化のために設立された兵庫県共同ねじ株式会社が協業組合に該当する証拠はない旨判示するが、本件のように生産ラインの一部分(第一工程)の協業化による集約化がなされた場合には、そのために協業組合が結成されたか否かは問題でなく、第二工程以降を担当する個別企業たる控訴会社において右協業化に伴い製品等の性能、品質に著しい向上が得られた以上、その生産ライン自体、すなわちボルト生産の第二工程以降の生産設備を有する神戸工場もまた、その全体が「構造改善事業の用に供する施設」に該当するものというべきである。けだし、右生産ラインの協業化の機能にかんがみると、第二工程以降の生産設備がある神戸工場もまた、構造改善事業の目的、内容である「製品の性能、品質の向上」等を達成するための施設にほかならないからである。なお、仮に、被控訴人ら主張のとおり外形的にその効果がわかるような設備の近代化等を行う必要があるとしても、控訴会社は神戸工場の生産ラインに原判決添付の別紙(三)及び図面(二)記載のとおりの設備を新設し、設備の近代化をした。

2  ボルト生産の「第一工程」の協業化のため設立した兵庫県共同ねじ株式会社に対する控訴会社の出資は法律上は金銭出資であるが、その実態は現物出資である。なお、兵庫県共同ねじ株式会社設立時、発起人が個人資格であつたため控訴会社代表者個人名で株式を引き受けたが、現実には控訴会社が株主であり、株主名簿上も控訴会社の会計処理上も控訴会社が株主として取り扱われている。

二  被控訴人らの主張

1  生産ラインの一部協業化により、控訴会社が神戸工場において旧来の設備機械で第二工程以降の生産工程を行うこと自体は構造改善事業の実施に当たらない。神戸工場において「第二工程」を行うことにより成果を上げたとしても、それは、構造改善事業として生産ラインの一部分である「第一工程」について出資による集約化を行つたことの反射的効果にすぎない。もつとも、生産ラインの一部協業化が行われた場合に、旧来の工場において構造改善事業として外形的にその効果がわかるような設備の近代化等を実施したときは、その施設を「構造改善事業の用に供する施設」と評価して妨げない。

2  控訴人の右2の主張は争う。なお、当審における控訴会社代表者尋問の際、同代表者が所持していた出資者住所氏名表によると、控訴会社代表者である橋本尚が個人の資格で出資したことになつている。

第三証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本訴各請求はいずれも原判決が認容した限度において正当として認容し、その余を失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、それをここに引用する。

1  原判決一九枚目裏一一行目の「代表者尋問の結果」の次に「(原審及び当審とも、以下同じ。)」を、同二一枚目裏七行目の「近藤光治」の次に「の証言」を各加え、同二二枚目表三行目の「を有し」を「であり、従業員約二四〇名を常時使用し」に改め、同二二枚目裏一一行目の「第二工程以降」の次に「(同製造工程のうち焼鈍から梱包・出荷までの工程)」を加え、同二三枚目裏六行目の「とおり」からその一〇行目の末尾までを「機械名番号3又は5、50、59、69の四台である。なお、控訴人は、原判決添付の図面(二)記載の機械名番号19、25、78、79、80、81の各機械設備も本件係争年度に新設したものである旨主張し、原審における控訴会社代表者尋問の結果中には右主張に沿う部分が存するけれども、原審証人近藤光治の証言によれば、昭和五六年一〇月一五日に行われた税務調査の際、控訴会社の神戸工場長は審査庁の職員に対し、昭和五二年八月九日付け作成の図面(原判決添付の図面(三)と同じ内容のもの)を提出し、昭和五二年二月二〇日の時点における構造改善事業の用に供した新設機械は同図面の機械名番号3又5、50、59、69の各機械であると説明した事実が認められ、この事実と右控訴会社代表者の供述を裏付ける客観的な資料がないことに照らすと右部分はにわかに措信できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。」に、同二四枚目表一行目及び三行目の「別紙(三)」をそれぞれ「別紙(二)」に各改める。

2  同二四枚目裏九行目の「る」の次に「(地方税法七〇一条の三二、同条の四〇)」を加え、同二五枚目裏一〇行目の「別紙図面(三)」を「前記認定」に改める。

3  なお、控訴人は、当審において、「ボルト生産につき、本件のように生産ラインの一部分(第一工程)の協業化による集約化がなされた場合に、第二工程以降の生産工程を分担する個別企業たる控訴会社において右協業化に伴い製品等の性能、品質に著しい向上が得られたときは、第二工程以降の生産設備を有する控訴会社神戸工場もまた、その全体が「構造改善事業の用に供する施設」に該当するというべきであり、仮に、外形的にその効果がわかるような設備の近代化等を行う必要があるとしても、控訴会社は原判決添付の別紙(三)及び図面(二)記載のとおりの設備を新設しており、また、右「第一工程」の協業化のため設立した兵庫県共同ねじ株式会社に対する控訴会社の出資は法律上は金銭出資であるが、その実態は現物出資であるから、「生産ラインの一部分の協業化」、「出資」のいずれの面からみても、神戸工場は非課税対象である。」旨主張する。

ところで、本件のように、構造改善事業計画の一つである企業の集約化事業がボルト生産ラインの一部分の集約化という形態で行われ、控訴会社をはじめとするグループ企業一三社がそれぞれ出資して兵庫県共同ねじ株式会社(以下「新会社」という。)を設立し、新会社がその第一工程を分担し、個別企業である控訴会社ら各自において第二工程以降の生産工程を実施して製品の生産をするようになつた場合において、個別企業がその所有する施設、すなわち第二工程以降の生産設備を近代化し、製品等の性能、品質に著しい向上をもたらしたときには、地方税法が都市環境整備の目的財源に充てるため事業に係る事業所税を課することにした趣旨及び中小企業対策の見地から法令をもつて明定された国の施策に従つて実施する中小企業の近代化、共同化等の事業に係る施設については事業所税を課することができないとした趣旨に照らし、個別企業のその施設もまた、「構造改善事業の用に供する施設」に該当するものと解するのが相当である。しかしながら、本件においては、控訴人主張の第二工程以降の生産設備について近代化がなされた事実及び製品等の性能、品質に著しい向上がもたらされた事実は本件全証拠によるもこれを認めることができない。もつとも、原審及び当審における控訴会社代表者尋問の結果中には右主張事実に沿う部分が存するけれども、右部分は具体性に欠け、また、これを客観的に裏付ける資料が全くないからにわかに措信できない。

なお、同代表者尋問の結果によれば、控訴会社の新会社に対する出資については、現物出資では商法上の制約等があるので、いつたん金銭出資をしたこととし、その後に控訴会社の第一工程の機械設備を新会社に売り渡して右出資金を取り戻すという方法を選択したことが認められるところ、控訴会社の既存の機械設備の譲渡移転という事実のみに着目すれば、生産ラインの一部集約化のために現物出資がなされたのと同様の結果が生じたというに妨げないこととなるが、それだからといつて、第二工程以降の生産設備を有する控訴会社神戸工場もまた、その全体が当然「構造改善事業の用に供する施設」に該当すると断ずることはできない。けだし、控訴会社の右出資及び売買により現物出資と同様の結果を生じたとしても、前記説示のとおり、それを実行した控訴会社において、残存設備の近代化並びに製品等の性能及び品質の著しい向上等が構造改善事業として実施されない以上、控訴会社の第二工程以降の生産設備が非課税の対象になる筋合はないからである。

したがつて、控訴人の右主張は採用できない。

二  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項により本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件控訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌 大須賀欣一 大谷種臣)

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